大阪大学における創造性を育む場づくり 「創造工学センター」

  
第9回ものづくり・創造性教育に関するシンポジウム, 熊本大学, 2011年11月4日 講演要旨(一部改変)
 
 
はじめに

大阪大学工学部/大学院工学研究科創造工学センターでは、平成16年度の開設以来、実践的で創造性豊かな研究者や技術者の育成支援に取り組んでいる。設備としては、少人数の共同作業に適している16室の演習室、各種の工具や工作機械を使用できる加工・工作室、ラピッドプロトタイピングを支援する3次元造形装置(Dimension BST768)および3次元スキャナ(Rexcan掘砲鯣えた特性評価室、そして中央には、競技会や展示・発表会など目的に応じて柔軟に利用できる多目的スペースを備えている。

これらの設備を活用して、各学科・専攻が様々な特色ある授業を展開しており、今年度(平成23年度)は全部で11つの授業が開講されている。また、本センターでは平成19年度より独自の教育展開も実施している。本稿では、その実施状況について報告するが、その前に本学における創造性教育の特徴として、法人化以来の大阪大学の教育方針について若干触れておきたい。


大阪大学の教育方針

本センターの開設は本学の法人化とほぼ期を同じくしている。法人化に伴って本学が掲げた教育目標の1つに「デザイン力」の育成がある。ここで「デザイン力」というのは、「モノ・人・社会のありかたを構想する柔軟な想像力のこと」とされている[1]。また、この〈想像〉について、哲学者の鷲田清一前総長は著書の中で「〈想像〉というのは、ここにあるものを手がかりとして、ここにないもの、つまりは不在のものをたぐり寄せる、あるいは創りだすという、精神のいとなみのこと」と定義している[2]。この「デザイン力」の育成および(創造と音が同じである)〈想像〉のいとなみの重要性の再認識が、本学の創造性教育に通底する源泉となっている。


センター独自の教育展開の実施

そのような機運に乗じて、本センターでは独自の教育展開として、基礎セミナーおよび夏期公開セミナーを開講している。どちらも、利用可能な材料の制約範囲内で、ある機能を有する人工物の設計・製作(有限設計)に共同作業で取り組むことを通じて、新しいものを創りだしていくための工学設計の一連のプロセスを体験的に学び、創造性を育成することを目指している。

基礎セミナーは、本学学部生および近隣の高校生若干名を対象にした少人数のグループ演習であり、1学期に開講している。課題は「ペーパーカーレース」で、材料制約(ケント紙、アルミ棒材、ボルト・ナット類、輪ゴム等)の下、輪ゴム1本のみを動力源とするペーパーカーを設計・製作し、10メートルの直進走行タイムを競う。今年度は新たに3次元CADソフト(SolidWorks)を製図に用いて、小型カッティングマシン(Craft ROBO-Pro)による紙加工を行った。どのグループも昨年度までの記録を塗り替える大健闘で、ベストタイムは4秒06であった。

他方、夏期公開セミナーは、本学で実施している創造性教育と中等教育との連携を図る目的で、近隣の高校生および高専インターンシップ生を対象に、例年8月上旬に4〜5日間の集中講義として開講している。課題は「ジャンピングマシンコンテスト」で、こちらも材料制約(乾電池、モータ、輪ゴム、木材、アルミ材、ネジ類等)の下、マシンの設計・製作を行い、その跳躍の高さを競う。今年度は、高校3校、高専7校から合計16名の参加があり、4名ずつのグループに分かれて課題に取り組んだ。3次元CADで製図をしたグループには、制限時間の範囲内で、3次元造形装置による部品製作を許可したことから、構造の異なるマシンが出揃い白熱した競技が展開された。

今後は、これまでの学部対象の高等教育および中等教育との連携に加えて、大学院教育における創造性教育の展開、小中学生対象の初等教育との連携のありかたについても構想したい。


おわりに

大阪大学では、鷲田清一前総長が副学長の頃から、創造的な活動のための空間の整備事業に関しても力を入れて進められている。前総長の言葉を引用すると「学部・研究科の枠を越えて皆がなんとなくたまり場にする、そしてそこから思いもかけない学生の創造的な活動が生まれる、そうした「無目的」の空間」づくりである[3]。それは建築家の青木淳氏のいうところの「原っぱ」(そこで行われることが空間の中身を作る建造物)であり[2][4]、同じく建築家の谷尻誠氏の設計事務所の「空っぽの空間」(そこで起きる行為が、空間に名前を付けるような場所)にも通じるものである[5]。「多目的」スペースを有する創造工学センターであるが、時には「無目的」な空間としても有るよう(無何有)に心がけ、より一層、学生達の自発的な創造性を育む場にしていきたいと思う。


参考文献

[1] 大阪大学, 阪大ニューズレター, No.26, 2004 PDF
[2] 鷲田清一, 〈想像〉のレッスン, NTT出版, 2005
[3] 鷲田清一, 大阪大学のプライド, 生産と技術, Vol.63, No.4, 2011, p.1 PDF
[4] 青木淳, 原っぱと遊園地, 王国社, 2004
[5] 谷尻誠, 初めて考えるときのように, TheFutureTimes, No.00 創刊準備号, 2011 Archive

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