ライフサイクルアセスメントの国内外の動向とこれからの展開

 
2008年3月6日と7日の2日間、東京の虎ノ門にて「Workshop on LCA for APEC Member Economics -10 Year Progress of our LCA and What are Next Step?-」に参加した。ここでは、参加者として、その概要や感想を書き留めておきたい。


このワークショップの目的

このワークショップのシリーズは、1998年から産業技術総合研究所(AIST)が主催して隔年で開催しているもので、今回で6回目を迎える。このワークショップの主な目的は、地球規模の持続可能性の実現に向けて、ライフサイクルアセスメント(LCA)に関する知識や情報を共有すること、それからLCAの応用や革新的なアイディアについて議論することである。また、産業技術総合研究所の「ライフサイクルアセスメント研究センター」がこの3月で7年間(2001〜2007年度)の役割を終えて、2008年4月から「化学物質リスク管理研究センター」などと統合して新たな研究部門を設立するということで、今回のワークショップでは上記の目的に加えて、このライフサイクルアセスメント研究センターが取り組んできた研究の総括を報告することも行われた。[1]


日本におけるLCA研究の体制と流れ

ライフサイクルアセスメント(LCA)とは、簡単にいえば、製品やサービスの環境への影響をそのライフサイクル全体を考慮して総合的に評価する手法である。国際標準化機構(ISO)が発行している環境マネジメントシステムに関する国際規格でも、製品の環境調和性を評価する手法として、ISO14040シリーズにおいて規定されている。日本におけるLCA研究の体制を概観すると、1995年「LCA日本フォーラム」設立、1998年国家プロジェクト開始「第1期LCAプロジェクト(1998〜2002年度)」「第2期LCAプロジェクト(2003〜2005年度)」、2001年「産業技術総合研究所 ライフサイクルアセスメント研究センター」設立、2004年「日本LCA学会」設立という状況であり、これまで、ライフサイクルインベントリのデータベース拡充、「日本版被害算定型環境影響評価手法(LIME: Life-cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling)」の開発、LCA手法の研究開発、LCAの普及活動や地域への適用検討、LCAソフトウェアの開発などが行われてきた。

また、ライフサイクルアセスメント研究センターでは並行して、欧州で一般的になりつつある「持続可能な消費(Sustainable Consumption)」に関する研究(2002〜2004年度)も行われてきた。これは、従来の産業界を中心に行われてきた生産者側における環境負荷の低減に加えて、消費者側(民生部門)においても消費形態を再考・改善することが必要であるという認識のもと、社会を構築する全てのステークホルダー(因果関係者)の関与によって、ライフサイクルの全過程において枯渇資源の利用と環境影響を最小限に抑える暮らしを実現しようとするものである。「生活の質(Quality of Life)」や「幸福感(Happiness)」といった消費者が受け取る価値までつなげて、環境負荷の低減を考えようという枠組みである。これまでの7年間のLCA研究の流れは、産業界における製品規格や環境効率の向上から、徐々に行政や消費者を取り込む方向に展開してきたという状況である。[2]

LCAの直接的な活用のひとつとして、「エコリーフ(Eco-Leaf)」が挙げられる。エコリーフとは、製品の製造・使用・廃棄の全段階の環境影響が定量的に分かる環境ラベル(ISO規定ではタイプIII)である。これによって、生産者と消費者の間に環境負荷を低減するための良好なコミュニケーションを醸成しようという訳であるが、LCA研究において環境影響の評価項目はますます詳細になっている。その一方で、「カーボン・フットプリント(Carbon Footprint)」を商品に取り付けるといった、様々な環境影響のうち二酸化炭素排出量だけでいいから社会への導入を進めていこうという動きもみられる。[3] [4]


各国におけるライフサイクルインベントリ・データベースの現状

さて、ワークショップの最初のセッションでは、日本・タイ・マレーシア・中国・オーストラリア・ドイツの6ヶ国の研究機関からライフサイクルインベントリ・データベースの現状についての講演があり、続いて追加で、アメリカ合衆国・韓国・チリ・インド・オランダから現状やウェブサイトの簡単な紹介があった。データベースの作成計画を開始した年がずれていたり、各国毎に主要な産業から重点的にデータ収集を行ったりと、その拡充段階にはばらつきがみられる。どうやら各国とも国単位でデータベースの整備を開始したが、輸出入の事情もあり一国だけでは不十分であると気付いて、国際的な相互互換性のあるデータベースをつくろうという段階に入ってきているらしい。原形や調和のための調整はある程度必要かもしれないが、オープンソースな開発環境(Open Source Development)のアイディアも出始めているそうである。ただし、その場合、共通言語は英語となるであろう。ちなみに、日本のライフサイクルインベントリ・データベースであるが、現在は日本語にしか対応していない。


ライフサイクル影響評価(LCIA)の研究の現状

まず、1990〜2000年には、国際規格(ISO14042)が発効されて、特性化や重み付けが議論されて、被害量ベースの評価手法が提案された。その後、2000〜2005年の間に日本では、特性化や被害量の算定にはなるべく科学的な見地を取り入れたり、環境経済学の視点を取り入れたり、LCIAの不確実性を分析できるようにモンテカルロ法により不確実性に幅を持たせたり、といった手法開発が行われた。また、LCIAの応用として、環境効率やファクター、環境会計やコスト・便益分析への利用が検討された。

次の段階としては、地域特性の考慮、グローバルレベルへの改良、時間スケールの考察、社会的な側面との連関が検討されているそうである。地域特性の考慮としては、日本国内にしか対応していない「LIME」を他のアジア諸国にも対応できるようにしたり(あと2年くらい必要らしい)、例えば、水資源に関する環境影響を評価できるようにしたり、といった検討が行われている。グローバルレベルへの改良としては、「二酸化炭素の社会的費用」の議論にLCIAがどのように関与できるかといった検討、時間スケールの考察としては、変動や見通しなども含めた動的な評価が検討されている。空間は地域から地球規模に(世代内公平が焦点)、時間は静的から動的に(世代間公平が焦点)、拡げて統合していって、最終的には「持続可能性の評価」ができる手法の開発につなげていけないだろうか、というのが国内の産総研中心のLCIA研究の動向のようである。


UNEP/SETACライフサイクル・イニシアティブ

今回のワークショップでは、2002年に発足して、現在第2段階に入っている「UNEP/SETAC Life Cycle Initiative」の紹介も行われた。これは、2002年にヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」で要請された「持続可能な消費と生産を促進する10年枠組み」の進展に寄与するもので、ISO14040シリーズに基づくライフサイクル・アプローチの国際的な普及・実践をサポートする必要性の認識から発足した。第1段階では、国際的なライフサイクル・コミュニティ(1000名以上の登録メンバー)の確立や能力開発アクティビティの開始、小冊子『Why take a Life Cycle Approach?』(UNEP, 2004)等の出版、ライフサイクルインベントリ・データベース登録の開始、ライフサイクルに基づいた製品・サービス環境影響評価のための改良枠組みの開発、化学物質に関する毒性評価のためのより詳細な枠組みの確立、ライフサイクル思考に基づく廃棄物政策の促進に向けた多国間環境協定に対する支援等が行われた。[5]

続く第2段階(2007〜2010年)は、以下の3つの目標で進められているそうである。
1. リサーチとイノベーションを通じて、ライフサイクル・アプローチの手法に関する世界的視野を強化する
2. 消費クラスターを特定し、産業界・政府・一般市民が天然資源や原料・製品について意思決定を行う際にライフサイクル思考を用いることを奨励し、動機付けを与えることで、世界中でライフサイクル・アプローチの利用を推進する
3. 教育・トレーニングを通じて、ライフサイクル・アプローチ実践のための世界的な能力開発を行う


さいごに

以上、今回のワークショップのまとめは終わり。実際には、2日間に渡って、この他様々な研究事例の紹介や議論が行われた。詳しくは、下記の参考サイトを参照。2004年の日本LCA学会設立前後から、LCAの勉強を開始、LCA関連の研究発表会や講演会には10数回参加してきたが、これからLCA研究における自分のスタンス・関わり方を含めて再整理した上で、自身の研究・教育活動にもっと取り込んでいきたいと思う。


参考サイト

[1] 産業技術総合研究所ライフサイクルアセスメント研究センター(2008年3月まで)
  http://unit.aist.go.jp/lca-center/ci/
[2] UNEP Sustainable Consumption
  http://www.unep.org/themes/consumption/
[3] 産業環境管理協会(JEMAI)エコリーフ環境ラベル
  http://www.jemai.or.jp/ecoleaf/
[4] Carbon Trust
  http://www.carbontrust.co.uk/
[5] UNEP/SETAC Life Cycle Initiative
  http://lcinitiative.unep.fr/


津田和俊 2008年3月19日

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