自転車を一つの切り口として社会に切り込む公共デザインの授業

 
再転車と公共デザイン Re-tensha and Public Design (2006-2007)
千葉大学 普遍科目講義 平成18年度秋期/平成19年度春期


千葉大学の普遍科目(一般教養科目)として2006年度から新設された授業「再転車と公共デザイン」の取りまとめ(コーディネーター)を、学生でありながら2年間に渡って担当させて頂いた。今回は、その開講意図、授業の構成、2007年度の実施報告について簡単に整理をしておきたい。


まず、授業の名称の由来について。「再転車(りてんしゃ)」とは、持続可能な社会の構築に向けて、自転車を再考・再活用していこうというコンセプトを表す言葉として、僕が2002年につくった造語である。そして、ここでいう「公共デザイン」とは、定義するとすれば、現在の社会システムを再考し、よりよく変革していくために、各主体が積極的に参画するプロセスである。したがって、「再転車と公共デザイン」という名称には、授業を通じて「持続可能な社会システムの再考」と「変革のための参画」を促すという期待が込められている。

この授業の一番の特徴は、学生の任意団体である「再転車活用委員会(りてんしゃかつよういいんかい)」が、授業計画から授業運営、そしてなんと成績提出まで行ってしまうという、「学生起点の授業づくりの試行」という点にある。再転車活用委員会とは、上述の「再転車」というコンセプトのもと、学生有志により2002年から千葉大学の西千葉キャンパスで始まったプロジェクトであり、大学当局や周辺地域を巻き込んだ自転車リサイクルシステムの提案を皮切りに、自転車との新しい関わり方を検討している。[1] このプロジェクトの紹介については、また別の機会に譲りたいと思う。

さて、この授業の目的であるが、自転車および再転車活用委員会のプロジェクトを切り口に、交通・地域活性化・まちづくり・資源循環・地球環境問題などといった社会が抱えるさまざまな問題に対して、学際的かつ領域横断型のアプローチを試みる感覚を養うことである。そのため、大きく分けて、2つのアプローチを採用している。1つは、千葉大学内外から様々な専門分野の方々を講師としてお招きして、複眼的な視点を持つことを目的とした「講演」である。もう1つは、千葉大学が総合大学であることを活かして、様々な専門性を持つ学部・学科の学生が、ある特定の問題意識の下に集まってプロジェクト形成を行っていくことの醍醐味を体験することを目的とした「グループワーク」である。


初年度の2006年度は、再転車活用委員会のプロジェクト紹介に加えて、8名のゲストスピーカーの方々による「講演」、それから開講期間を通して対象地域におけるプロジェクトの企画立案を試みる「グループワーク」を行った。また、再転車活用委員会の取り組みを広く知ってもらうために、受講生を対象に、自転車のパンク修理作業などを体験する「ワークショップ」も併せて実施した。初年度の授業の簡単な実施報告については、「千葉大学 公共研究」第4巻第1号に掲載されているので、興味のある方はぜひこちらを参照して頂きたい。[2]

初年度の反省点として、「講演」と「グループワーク」の両方を並行して行うには時間が十分に確保できなかったことや、受講生に低学年が多いため(計60名程のうち、約半数が1年生)各学部・学科においてこれから専門性を磨いていくという学生が多く、当初の目的であった様々な専門性を活かしたプロジェクト・プランニングという試みがうまく実行できたとは言い難いこと等が挙げられた。

そこで、2007年度は、とにかく社会システムの構造を複眼的な視点で捉える感覚を養うことを優先して、オムニバス形式の「講義」に重点を置いて、授業の構成を考えることにした。イメージとしては、パブロ・ピカソらがつくった「キュビズム」の絵のように、色々な角度から観た物の形を、ひとつの画面に描き、立体的な物全体を平面状に表現しようという試みを真似て、自転車という乗り物に接点を持つ色々な専門家からの意見を、まず自分の中に描き、そして講義の終盤に1回分だけ他の受講生と話合いながら平面上に表現する「グループワーク」を行うことを考えた。その上で、学際的かつ領域横断型のアプローチをどう実現するかということである。様々な分野の人材の単なる寄せ集めではやっぱり駄目で、そういった「キュビズム」の感覚をもった人材をいかに育てるか。そのための方法論はあるのか。そのようなことを考えながら、授業づくりに取りかかった。


以下に、2007年度の春期(2007年4月〜7月)に実施した授業「再転車と公共デザイン」全14回の内容を簡単に紹介する。駐輪・道路交通・地域・資源循環といった4つの側面で捉えると、学内外からそれぞれ1名以上の講師の方に来て頂くことができたということもあり、全体としても前回以上にまとまりのある授業になったという印象を持っている。

第1回「オリエンテーション」津田和俊(千葉大学 再転車活用委員会)

第2回「再転車活用委員会のプロジェクト紹介」津田和俊(千葉大学 再転車活用委員会)
 プロジェクトの背景、コンセプト、設立から今日までの軌跡、プロジェクトの柱である「自転車の地域循環利用システム」の説明、現在の体制と課題、今後の展望に関して話をした。

第3回「キャンパス整備企画室と施設環境部による西千葉キャンパス交通計画」鈴木雅之氏(千葉大学 キャンパス整備企画室)
 キャンパス整備企画室は、千葉大学の施設環境のマネジメントやマスタープランの作成を行っているプランニングオフィスであり、将来の構想も含めた大学全体の計画を立案している。そのキャンパス整備企画室から鈴木雅之先生をお招きして、大学と都市・地域との連携事例、西千葉キャンパスの交通計画、大学と学生との連携についてのご講演を頂いた。

第4回「地域通貨ピーナッツ、地域と大学生の恊働と活動」海保眞氏(西千葉ゆりのき商店街・有限会社アミーゴジャパン)
 ゆりのき商店街は、千葉大学西千葉キャンパスに隣接する商店街であり、2000年4月から「地域通貨ピーナッツ」を導入、2006年9月からは地域のNPO法人や千葉大学生等と恊働して産学連携の観光プロジェクトを開始している。そのゆりのき商店街からピーナッツおじさんこと海保眞さんをお招きして、ゆりのき商店街と地域通貨ピーナッツの歴史、ふくろう広場で毎月開催されている第三土曜市、西千葉まちづくり協議会、「アイラブ西千葉」観光事業研究プロジェクト等について、ざっくばらんにご紹介して頂いた。

第5回「経済学の視点から見た再転車、地域通貨概論」武蔵武彦氏(千葉大学 法経学部経済学科)
 学内から法経学部経済学科教授の武蔵武彦先生にお越しいただき、自転車産業の特性、環境と経済、地域通貨の意義、グローバリズムと市民といった視点から、再転車の経済学的意義についてご講演を頂いた。

第6・7回「交通社会学からみた自転車問題」尾形隆彰氏(千葉大学 文学部行動科学科)
 文学部行動科学科教授の尾形隆彰先生から、交通社会学という視点からみた自転車問題について、2回に渡ってご講演を頂いた。前半は自転車の利用をめぐる現状と提案について、後半は自転車と類似した問題を抱えている二輪バイクの現状とその安全教育の意義について、ご講演を頂いた。

第8回「政策提言から交通安全への取り組み」小林成基氏(NPO法人 自転車活用推進研究会)
 自転車活用推進研究会は、自転車を有効な交通機関として機能させるため、調査・研究や自転車政策のための提言を行うNPO法人。代表の小林成基さんをお招きして、これまでの取り組みの紹介から、自転車に関する新聞記事や論争、世界情勢や国際比較から「今なぜ自転車なのか」についての説明、日本の道路交通法改正の話など、自転車を取り巻く様々なお話をして頂いた。

第9回「自転車販売店による中古自転車のリサイクル事業」藤井清氏(NPO法人 フィッツ)
 フィッツ(fiets)とはオランダ語で自転車のこと。NPO法人フィッツは、中古自転車のリサイクル事業を行っているNPO法人。代表の藤井清さんをお招きして、人と物の関わりからみた自転車、自転車リサイクル事業で扱っている台数や価格などの具体的な数値、自転車をリサイクルする際の心構えや大事なことについて教えて頂いた。

第10回「交通安全ジャーナル、交通の安全と円滑」大村孝夫氏(財団法人 東京交通安全協会)
 (財)東京交通安全協会は、警視庁をはじめ関係機関と連携しながら交通の安全と円滑を目指している財団法人。同協会が刊行している月刊誌「交通安全ジャーナル」編集長の大村孝夫さんにお越しいただき、自転車の点検整備と保険、道路交通法(道交法)における自転車の位置付け、自転車事故に関する様々なデータ、改正道交法の柱などについてご講演を頂いた。

第11回「自転車による地域活性化とデザイン」清水忠男氏(千葉大学 工学部デザイン工学科)
 学内から工学部デザイン工学科の清水忠男教授をお招きして、「ゆったり・すこやか型」観光のための自転車の役割、レンタサイクルを活性化するための提案、横浜におけるレンタサイクルやデンマークにおけるサイクル&PTライドの事例紹介、南房総バス&レンタサイクルネットワーク基本計画の紹介をして頂いた。後半には、受講生との対話を行った後、「まち歩き」を支援・促進する案内情報提示(サイン計画)のあり方についてお話をして頂いた。

第12回「グループディスカッション」
 2007年度の授業で唯一のグループワークである。以下の手順で進めた。
1. ひとりで考える(これまでの11回の授業を振り返って、興味深いと感じたこと、考えたことを3つ挙げる)
2. グループをつくる(近くの席に座っている5〜6名で集まる)
3. 自己紹介をする(所属している学科・学部・専門分野、趣味や興味のあること、この授業を受講した動機やきっかけなどを話す)
4. 考えたことを話す(1で挙げた3つを簡潔にみんなに話す)
5. 絵を描く(テーマ・主体・地図・絵・ロードマップなどを描く)

第13回「自転車駐輪問題と自治体の対応」酒井氏・佐野正人氏(千葉市 建設局土木部維持管理課)
 千葉市が取り組む自転車等の駐車対策ということで、千葉市の駐車対策の概要、JR鎌取駅周辺を事例に最近の駐車対策の取り組み事例についてご紹介いただいた。また、毎月の放置自転車撤去、移動した放置自転車の保管、放置自転車を減らすための試み、放置自転車台数の推移についてのお話を頂いた。

第14回「まとめ」津田和俊(千葉大学 再転車活用委員会)
 講義のおさらい、将来の展望、授業評価アンケートの実施を行った。


最後に、今後の展開であるが、来年度(2008年度)は、この授業「再転車と公共デザイン」は一旦お休み。その代わりという訳ではないが、2008年度後期の尾形隆彰教授担当の授業「交通社会学」内で、再転車活用委員会のプロジェクト紹介および授業「再転車と公共デザイン」の実施報告とその後の展開について、2回に渡って講義をさせて頂く予定である。ともかく、引き続き、大学教育などの高等教育における学生起点の授業づくりの可能性を探るとともに、それが環境学やサステナビリティ学などの分野においてどのような役割を果たすかについて考えていきたい。また、自転車を社会に再定義するためのネットワークを盛り上げていきたいと思う。


参考文献
[1] 中村耕史(2006)「再転車(りてんしゃ)活用委員会と地域的・環境的課題の解決」『千葉大学 公共研究』、第3巻第1号:223-231 PDF (1.32 MB)
[2] 津田和俊(2007)「大学における学生起点の授業づくりプロジェクト―「再転車(りてんしゃ)と公共デザイン」報告」『千葉大学 公共研究』、第4巻第1号:243-251 PDF (844 K)

津田和俊 2008年1月20日

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