岡山大学を中心とした大学における学生参画型教育改善の流れ


2007年9月8日、岡山大学の学生・教職員教育改善委員会主催の「第4回 教育改善学生交流」に参加した。ここでは、その概要、参加の背景、当日の交流会の内容、これからの展開について整理したいと思う。

岡山大学の学生参画型教育改善は、平成13年から本格化し、現在7年目を迎えている。その運営母体となっているのは、各学部から推薦された学生と教授で構成される「学生・教職員教育改善委員会」。委員長は学生が務めている。この委員会では、学生から募集した授業のテーマや内容をもとに協議、学内メールで担当教員を募り、授業化するという学生起点の新しい授業づくり(授業改善)を行っている。これまでに実現している授業は、「コンビニ」「癒しの公園計画」「大学授業改善論」「ドラえもんの科学」の4科目。今後も増えていくそうである。

今回参加したのは、特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)の採択前後から、この委員会が開始した「教育改善学生交流」である。この「教育改善学生交流」は、日本全国の大学から学生・教員・職員が集まるユニークなイベントとして関心を集めている。このイベントも、基本的に委員会の学生(それも1〜2回生)が企画・運営を行っている。第4回を迎える今年度の「教育改善学生交流」には、29大学109名が参加した。


この「教育改善学生交流」に参加することになった背景は、2006年度から千葉大学における学生起点の授業づくりプロジェクトとして、「再転車(りてんしゃ)と公共デザイン」という普遍科目(一般教養科目)の授業を担当したことから始まる。この授業は、2002年に学生有志により設立された任意団体である《再転車活用委員会》により授業計画・運営が行われるという珍しい授業である。この授業をきっかけにして、今後そうした学生からの提案や企画による授業を大切に育て増やしていきたい、という千葉大学の教員の方からの要望を受けて、今回この交流に参加することになった。学生の主体的な活動を他大学ではどのように行っているのか、学生にとって何がプラスになるのか、そしてどのような可能性があるのか等々を調査してくることが目的である。また、個人的な動機としては、環境学やサステナビリティ学のような領域横断型のアプローチを必要とする分野における教育の在り方や、オープンソースな高等教育の仕組みづくりに対して、学生参画型の授業改善が果たす役割を考えることが挙げられる。


今回の「第4回 教育改善学生交流」のテーマは、ディスカッション。話し合うということに焦点があてられている。まず、午前中にはディスカッションのデモンストレーションが行われて、午後から6つの問題提起毎に分かれてグループディスカッションを行い、最後に結果報告が行われた。グループディスカッションは、まず問題提起のプレゼンテーションが行われて、その後さらに小グループ(5名程で構成)に分かれて話し合った後、大グループでそれらの意見を発表して共有するという流れで進められた。

午前のデモンストレーションのテーマは、「国家の教育義務」。大学の授業料は無料にすべきであるという問題提起に対して、賛成と反対に分かれて議論をするというものであった。まず、大学教育などの高等教育を取り巻く日本の現状として、GDPに対する教育費の占める割合の低さ、国立大学の法人化、週休2日・ゆとり教育による教育格差拡大などが挙げられた。さらに、世界の現状としては、インド工科大学(Indian Institutes of Technology, IITs)の事例、ノルウェーの国立高等教育機関の授業料の原則無料という事例、1966年に国際連合総会で採択された国際人権規約における「中・高等教育の無償化」の話が挙げられた。それらの国内外の現状を踏まえて、未来への確実な投資として、日本が国家として教育政策に重点を置くことに関して様々な議論が行われた。


午後のグループディスカッションの問題提起は、事前に募集して集まったテーマ案の中から「学生・教職員教育改善委員会」が話し合って決められる。参加者は、その中から希望のテーマを選んで参加をするというものだった。グループディスカッションのテーマは以下の6つ。
1. 英語Iやキャリア対策(SPI、漢字など)の科目は任天堂DSソフトで単位認定を
2. 学生による学生支援のアルバイト化
3. なんできみは今,そこにいるの?
4. 学生に合わせた教育内容の削減について
5. 大学教育への学生参画2.0を考える
6. 君は授業に出る?出ない?

私は5つ目の「大学教育への学生参画2.0を考える」のグループディスカッションに参加した。プレゼンテーションでは、まず、名古屋大学物理学科の学生教育委員会が企画・運営した「カミオカンデツアー」の事例紹介が行われた。このツアーの狙いは、体験による学習、学生同士の連帯、レクリエーションの楽しさ、地元・地域理解などである。問題提起としては、学生による授業評価アンケートや岡山大学が取り組んでいる学生参画型からさらに進んだ、学生主導型の大学教育の在り方を考えるというものだった。

小グループでは、(岡山大学の学生・教職員教育改善委員会の学生1名と他大学の教員1名を含む)5名で話し合いを行った。他大学から参加している学生は、大学内に新しく立ち上げられた学生参画型の「授業改善プロジェクト」や「共通教育・学生教育委員会」に所属していて、千葉大学と同様に大学から交通費等が支給されて参加している学生であった。まず、岡山大学の「学生・教職員教育改善委員会」について、所属している学生からの意見を伺った。良い側面としては、学生・教員・職員の三者が参加していることから、授業づくりにおける予算や仕組みを知ることができて、学生がどこまで授業を変革できるのかを把握できる点や、授業が実現したときの達成感やリーダーの経験を得ることができる点が挙げられた。学生は11学部から1学年1人ずつ選出されて、毎週の話し合いには毎回40名位は出席しているが、学部毎にカリキュラムが異なるため時間が合わない場合も多く、毎週参加できないと状況が把握できなくなり委員会から離れていってしまうこともあるそうである。

私たちの小グループでは、大学教育の中でも特に共通教育(普遍科目、一般教養科目)に絞って話し合いを進めた。共通教育は、主に1〜2年生が受講する専門科目以外の授業科目である。教員側からは、各々の学問分野に興味を持ってもらうための「着火剤」として、その方法論(考え方のプロセスの導入部分)を教えるという役割や、専門科目以外の教養の知識を身に付けさせるという役割がある。その一方で、学生側から「自分たちはこういう事柄について学習したい」というニーズを集めて、それを反映させた授業をつくるのに適していると考えられる。それを実現する仕組みに関して、小グループの提案をまとめた。以下、簡単にその仕組みの手順を示す。

1. 学生がそれぞれ、受けたい授業の企画(主題や内容)を提案する
2. ウェブサイトやアンケートで、学生の「受けたい」という声(ニーズ)を集める
3. ある一定数以上の声が集まった授業から、本格的なシラバス作成に移る
4. 担当講師の募集と共に、内容によっては企業スポンサーも募集して運営費に充てる
5. 授業のマネジメント(運営・評価)は、学生もしくは教員が行う

この提案に対する大グループ内での意見としては、「授業の実施にスピードが要求されるような時事のテーマにはどう対処するのか」「運営・評価を教員が行った場合には、学生主導型の授業といえるのか」「企業スポンサーをつける場合は、業種内のバランスを考えた方がよいのでは」など。最後に岡山大学の橋本勝教授からは、「学生のニーズに全て対応するのではなく、少しひいて妥協案を選択するようにすると、ぐっと実現可能案になるのでは」という意見を頂いた。

他の小グループからは、「学生が、他の専門分野の学生に、自分の専門分野の面白さを伝える授業」「当番制で学生が教える授業」「問題発見能力、創造力、立案能力を身につける授業」「生き方を考える学部横断的なキャリアデザイン教育」などが提案された。私たちの小グループの提案も含めて、共通の問題点としては、「学生が授業運営をした場合に、授業の質はどう確保(担保)するのか」「オムニバスのリレー方式の授業は取りまとめが難しいのでは」「学生が得られる効果がみえてこない」「評価はどうするのか、単位認定をするとなると厳しいのでは」が挙げられる。楽観視しすぎかもしれないが、質の問題にしても評価の問題にしても、大学内でその「基準」を策定することができれば、どの提案もすぐ実現できるのではと思えた。さらにいえば、学習の成果がすぐに明確には現れないこのような学生参画型の授業に対して、従来の教育評価(成績評価)を当てはめようとすること自体に無理があるのかもしれない。


今後、この「教育改善学生交流」に参加した学生が中心となって、各大学において学生参画型の授業づくりの様々なかたちが新しく提案されることが予想される。しかし、いずれにしても、岡山大学のように学生と教職員の対話が頻繁に行われる組織づくりと、目的意識を明確に持って主体的かつ継続的に授業づくりに取り組むことができる学生が育つ気運、この2つは不可欠なのではないだろうか。

津田和俊 2007年9月25日

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